現代西洋経済史(2004年度冬学期)講義案内

2004年10月14日
小野塚 知 二


A 講義の構成
 T 導入
  1 課題と方法
  2 19〜20世紀という時代
 U パクス・ブリタニカの世界 −"nation-"の形成−
  1 インダストリアリズム
  2 「国民国家」・「国民経済」の言説
  3 市場統合への動きと対立 −「自由貿易」体制−
 V 19世紀末の変化と第1次世界大戦 −"nation-"の制約−
  1 世界システムの変化 −「大不況」−
  2 「国益」の論理転換 −保護主義・関税戦争−
  3 世界市場と植民地
  4 破局と組織化の経験 −第1次世界大戦−
 W 戦間期と第2次世界大戦
  1 もう一つの組織化 −社会主義−
  2 逆行 −ヴェルサイユ体制−
  3 戦時の経験の不可逆性 −1920年代−
  4 世界経済の性格変化と大恐慌
  5 再び組織化 −1930年代−
  6 再び破局 −第2次世界大戦−
 X 戦後秩序の形成と動揺
  1 戦後構想と戦後
  2 冷戦と福祉国家
  3 再建と改革
  4 国際調整の仕組み
  5 ヨーロッパ共同体
  6 動揺
  7 再編
 Y 結語

B 講義の目的
 本講義の目的は、この1世紀ほど(19世紀末〜20世紀末)のヨーロッパにおける対立・摩擦と協調・統合の要因をそれぞれ分析することにある。現代ヨーロッパ史のユニークな点は、それが激烈な対立を繰り返しながら、確実に協調と統合の道を歩んできたところにあり、戦後のヨーロッパ統合の進展過程やEUの現状に目を向ける際にも、摩擦、軋轢、齟齬、対立の側面を忘れることはできない。

 こうした目的を設定するに際して注意を促したいのは以下の3点である。(1)対立/協調の現象は一つの時代にあっても一義的ではなく、それゆえ要因も単一ではない。複眼的な方法(と、諸要因間の関係を整序する方法)を必要とする。(2)さまざまな俗説を批判的に検討する。「最適市場規模」、「国(nation-,国民経済、国民国家、国民文化等々)の溶解と国際化」、「取引費用の節約」、「民族対立・宗教対立、あるいは、キリスト教の共有」などに依拠する俗説は限定的には嘘ではないが、それを強調すれば嘘であり、有害である。(3)過去のどの現象も個性的であり、1回限りの性質を強く帯びているが、その中には、決定的な結果をもたらす現象と、修正・変更可能な結果をもたらす現象とがある。両者を見分ける万能の基準は、かつてのスターリン主義的な歴史学のように一義的に定まるわけではないが、マーシャル=クラッパム流の有機体的な進化論のように基準を定めえないわけでもない。

 上述の(1)について、具体的な見透しを述べれば、この講義では、上の2世紀ほどの期間をいくつかの時期に区分して、各期の@世界システム(通貨・金融、資本移動、貿易・海運、人口移動、外交・軍事など)の特質、A各国・地域の内的条件(19-20世紀に関しては殊に労使関係、農業、失業・貧困問題)を概説したうえで、B国内問題が国際問題に、また国際問題が国内問題に転化する様相を明らかにして、Cそれらを解決・回避する方策がどのように模索されてきたかを論ずる。@・Aで概観された要因は、Bを経て、Cの政策的要因で総括される。

 ヨーロッパ諸地域が主たる叙述対象であるが、世界システムや国際問題を扱うために、必要に応じてそれ以外にも論及する。19-20世紀において世界の人口と面積の大半を占めた植民地・第三世界だけでなく、殊に20世紀には、北米(と日本)はヨーロッパにとって無視できない外的要因である。

C 履修上の注意

1 単位取得の条件
 @毎回出席し、A講義内容を理解し、Bそれを自分のノートに整理し、C参考文献等を用いて自習することが単位取得の必須条件である。出席は強要しないが、「出席しなくても単位(あるいは、良好な成績)がえられる」ことを意味するわけではない。試験答案を見れば、諸君が何をしてきたか −ノートを取りながら注意深く聴き講義内容を正確に理解していたか、あるいは出席はしたが板書を書き写す他はろくにノートをとらずに漫然と聴いていたか、それともほとんど出席せずに他人のノートを借りただけか、また講義時間以外にさまざまな文献を用いて自習したか等々− はほとんど一目瞭然にわかる。少なくとも成績を評価するのに充分な程度にはわかるし、諸君が何をしてきたのかわかるような問題を出す。
 毎回、出欠席をチェックして一人前の人格の諸君に出席を強要するような無用なことはしない。自律を期待する。欠席の連絡は事前にも事後にも必要ない。ただし、やむをえない事情で長期間欠席する場合は連絡していただければ、何らかの助言や指示を与えることができよう。

2 成績評価
 成績は原則として学期末の試験で評価する。試験のやり方はまだ決めていないが、おそらく、複数出題した内の何問か選択ということになるであろう。なお、提出任意・テーマ自由(むろん、この講義の内容に関わる限りで)のレポートで所定の条件を満たしたものを提出した場合、一つにつき概ね0〜10点の範囲で加点する。レポートについては後日配布する別紙で案内する。

3 質問と相談
 質問は講義中随時受け付けるが、時間をとらずに簡潔に答えられることなどに限っていただきたい。その他の質問や相談は講義終了後受け付ける。ただし、講義後に時間の切迫した用事があるときは失礼することもありうるので、以下の方法を用意しておく。
 (1)私の研究室(910)を訪ねていただくのが、文献等もその場で案内できるので最適な方法である。他に用事がない限り毎日来ているが、講義、会議、その他の用務で研究室にいないことが多く、研究室にいても多用で応対できないこともあるので、e-mail(onozukat@e.u-tokyo.ac.jp)で事前に連絡して日時を決めておいた方が確実であろう。
 (2)質問・相談はe-mailでも受け付けるが、じかに会うのと違って何度かメールのやりとりをしないと埒のあかないこともしばしばなので、決して手軽な方法ではない。
 (3)質問されたことで、受講者全員が知っていた方が良さそうな重要なことがあれば、ホームページ(http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~onozukat/educational_j.html)上にQ&Aを載せるであろう。なお、ホームページ上でこの講義に関する文書を閲覧するためには、科目番号(2402)を入力する必要がある。

4 講義評価
 講義評価をしていただく。評価シートは、単なる苦情アンケートや、無い物ねだりをする七夕の短冊ではないので、内容上のことまで的確に評価できるように講義に臨んでほしい。