経済史(東京大学経済学部 2005年度通年 木X、駒場)

経済史受講者にひとこと、ふたこと

履修上の注意


2005年5月13日

T 経済学部カリキュラムにおける経済史の位置
 この科目を含む専門科目1の9科目は、経済学部に進学を予定している者が7科目以上履修することが期待されており、経済学部学生にとって共通の基礎を形成します。同時に、この科目は、3・4年次に(さらに大学院で)経済史・経営史関係の科目を履修しようとする者にとっては初級コースでもあります。この分野の3・4年次向けの中級コースとして、近代日本経済史、現代日本経済史、現代西洋経済史、アジア経済史、経済思想史、経営史、日本経営史などが、上級コースとして上級西洋経済史、上級日本経済史などが開講されていて、そのほかに特殊講義が上級科目ないし選択科目として毎年、複数、開かれています。
 それゆえ、この経済史では、@経済史学の基本的な概念と方法を習得すること、A前近代の社会・経済との対比で近現代の資本主義・市場経済の特質を理解すること、B前近代から、長い過渡期(近世あるいは初期近代)を経て、近現代の資本主義・市場経済へ移行する過程の動態を理解すること、C近代の資本主義・市場経済の中での変化や個性を知ること、これら4点が主たる眼目となります。この講義が具体的に扱うのは、ほぼ第1次大戦前までの時期で、殊に近世と近代に重点が置かれるでしょう。受講者の中から「この五十年か百年ほどのことを詳しく教えてほしい」といった声の聞かれることがありますが、基礎ないし初級では現代(第1次大戦以降)は扱わないというのが、経済学部カリキュラムにおけるこの科目の位置付けです。はじめは、近視眼的に最近のことだけを見るのではなく、いまのわれわれが生きる経済・社会を相対化して大づかみに捉えてほしいのです。
 むろん、上述の3・4年次向けの講義では、逆にたとえ嫌でも、最近のこと(近代から現代への変容、現代の社会・経済・国家の関係)を扱いますし、演習ではさらに専門的な内容を学ぶことができるでしょう。いまのうちから現代史も知りたいという諸君には個別に文献の案内などはするつもりですが、まずは、この科目の内容を確実に修得することに力点を置くべきでしょう。


U 参考文献と講義の関係
 「経済史(2005年度)参考文献」(4月15日公開)U群から1ないし2冊、V群から2冊ほどを読み、要点や疑問点などをノートに記すようにしてください。講義は、諸君がそうした自習をしていることを前提にして進めます。したがって、それらの文献を読めば直ちにわかるようなことがらは講義で事細かに論ずることはしません。この講義には、基礎ないし初級の経済史としては最先端の内容や必ずしもありきたりではない内容を盛り込むつもりですが、そうするためには、一読して理解できることの説明に多くの時間を割くことはできません。つまり、この講義は相当な自習を必要とします。一見難しそうな数式やグラフは頻出しませんが、とっつきやすく見えても油断しない方が良いと思います。難解な述語や数式・グラフはわかってしまえば後は簡単ですが、逆に普通の言葉で叙述する経済史のような科目は、講義中は何となくわかったような気がしても、後になって考えてみると何がわかったのかたいへん心許ないといったこともありがちですので注意してください。


V 単位取得の条件
 したがって、毎回出席し、講義内容を理解し、それを自分のノートに整理し、参考文献等を用いて自習することが単位取得の必須条件となります。
 出席は強要せず、そのチェックもしませんが、「出席しなくても単位(あるいは良好な成績)が得られる」ことを意味するわけではありません。私が一回の講義で話すのと同じことを、諸君が出席せずに、自学自習徒手空拳で完全に達成しようとしたら、不可能とは言いいませんが、おそらく莫大な時間と労力を要するでしょう。それゆえ出席は義務(あるいは時間の消費)ではなく、諸君にとって利益(時間の節約)となるはずです。
 試験の答案を見れば、諸君が何をしてきたか −ノートをとりながら注意深く聴き講義内容を正確に理解していたか、あるいは出席はしたが板書を書き写すほかはろくにノートもとらずに漫然と聴いていたか、それともほとんど出席せずに他人のノートや「シケプリ」を借りただけか、また講義時間以外にさまざまな文献を用いて自習したか、否か− はほとんど一目瞭然にわかります。少なくとも成績を評価するのに充分な程度にはわかるし、諸君が何をしてきたのかわかるような問題を出します。
 それゆえ、毎回出欠席をチェックして、一人前の人格の諸君に出席を強要するような無用なことはしません。自律を期待するのみです。欠席の連絡は事前にも事後にも必要ありませんが、病気療養等やむをえない事情で長期間欠席する場合は連絡していただければ、何らかの助言や指示を与えることはできます。


W 成績評価
 成績は、小野塚と岡崎が3対1の比重で、原則として年度末(2006年2月)の試験で評価します。試験のやり方はまだ決めてませんが、複数出題した内の何問か選択ということになるでしょう。
 なお、小野塚の担当分については、年度末の試験(75点分)のほかに、レポートの成績も加味します。提出任意・テーマ自由のレポートで所定の条件を満たしたものを提出した場合、一つにつき概ね10点以内の加点をします。ただし、他科目のレポートの流用など、本講義におよそ関係しないテーマのレポートを提出した場合、減点の対象とすることもなしとはしませんので、安易な点稼ぎの手段とは考えないでください。レポートについては後日別紙で詳しく説明しますが、保険(成績に下駄を履かせる)効果より学習効果の方がはるかに大きいものと考えてください。
 通常の講義時間中に小テストを実施するか否かは、まだ考えあぐねています。講義時間を削らなければならないデメリットと、みなさんに緊張感を持っていただくメリットのかねあいが難しいのです。実施する場合は、30分ほどの小テストを数回行います。小テスト終了後は、短時間のTA(ティーチング・アシスタント)セッションで、解法・模範解答などが説明されます。


X 高校の日本史・世界史との関係
 経済史は高校の日本史・世界史といくらか似たような対象も扱いますが、ほとんど別のものと心得てください。それゆえ日本史・世界史の好き・嫌いや得意・不得意は経済史の履修や成績にほとんど関係しません。日本史・世界史が得意だった人は油断しない方がいいし、苦手だった人は経済史を敬遠する必要はありません。また、高校の教科書・参考書・『歴史用語集』の類は、経済史の自習やレポート作成に用いるべき文献とはなりません。高校で用いた歴史地図・年表や『小辞典』などは、多少役に立つことがあるかもしれませんがが、あまり期待しない方が良いでしょう。