経済史受講者諸君にふたたびひとこと
2005年5月18日
小野塚 知 二
T 本講義のレポートについて
テーマが自由で、提出が任意のレポートを受け付ける。
大学は義務教育の場ではないので、強制的要素はできる限り避けて、諸君の自学自修を助けることを本旨としたい。講義も、極論すれば、そのための一つの「きっかけ」にすぎない。講義内容については充分な時間をかけて準備しているが、いかに入念に準備しても、教員が講義で全てを話し尽くすのは到底不可能である。年間たかだか25回程の講義で、その科目について学生に伝授すべき全てを尽くすことができたら、それは神業であり、教師の業ではない。自分は現にそうしているという教員が、もしいるなら、その講義内容がよほど貧弱か、学生への期待水準が低いか、あるいは教員の自己認識が欠けているか、いずれかであろう。また、学生が聴くだけで講義内容を完全にマスターすることも無理である。つまり、私としては講義をしてしまえば、後は学生諸君の自習に期待するほかない。しかし、ただ期待するだけでは心許ないし、無責任の誹りを免れまい。したがって教員が講義時間以外に指導し、学生が講義を超えて学習するということもあるべきだが、それは個別的な方法に頼らざるをえない。テーマ自由・提出任意のレポートはそのための一つの方法である。
次のいずれかにあてはまると思う人はレポートを書いて提出すると良い。
A些かなりとも経済史に興味を覚えた。→こういう人は、自分の関心に即して読み、調べ、考えたことをレポートにまとめてみると良い。ただ読むだけ、あるいは考えるだけに比べて、自分で書くと理解も深まり、考えもはるかに明晰になる。既に申し上げたように、この講義は教科書的・概説書的な内容に多くの時間を費やすことはしないから、自習で補っていただきたい。歴史は一般的な理論や法則だけでなく、個性記述を尊重するが、この講義はしばしば前者に傾くので、諸君には自習でそれを修正してほしい。そうした自習の延長上で、専門書や学術論文に手を出すということがあってもよいし、そこまで勉強したならせっかくだから何か書くことを勧める。
Aどうしても単位がほしいが、期末試験だけでは不安だ。→勉強してレポートを出しなさい。ただし、毎回の出席や自習を怠ってもレポートで単位が取れるということは少しも意味しない。必要単位取得のためにやむなく経済史を受講しているという諸君もいるだろう。大学が制度として卒業要件を定め、一定の単位取得を求めている以上、受講科目全てに意欲的であれとはとても言えない。やむなく受講する科目があるのは少しも不思議ではないし、そこには何の不都合もない。
私は、本当は卒業要件は語学・体育・演習・卒論だけにすべきで、他の講義科目の履修を単位制度で縛るのは望ましくないと考えている。講義は、いくつかの基礎的なものを除けば、他学科・他学部のものも含めて諸君が好きなように受講すれば良いので、試験などで成績評価をするにしても、単位を付与すべきではない。「単位のために履修する」ことになってしまうからである。それに諸君が何をどのように学習してきたかは卒論の審査を慎重かつ厳格に行えば大概はわかるのである。「良い成績」でたくさん単位を揃えても、ろくでもない卒論を書かれたのでは泣きたくなるものである。
むろん、高等教育は一定の水準を満たさなければならないから単位や成績評価は必要だが、それらは学習によって一定の水準を満たした結果を表現するものであって、大学本来の目的ではない。この点では譲れない一線があり、それを譲ってしまったら大学は自らを否定することになる。他方、受講した以上、単位(あるいは高い成績)が欲しいだろうし、私としてもなるべく単位(あるいは高い成績)を与えたい。この点では学生と教員の利害は一致する。譲れない一線と一致する利害とを調和させるには、単位や成績に「保険」を掛ければ良い。レポートはよほど奇抜なテーマで書かない限り、期末試験の答案練習になるし、また期末試験の成績が不良の場合は若干の「下駄を履かせる」効果をもつから保険として役に立つ。レポートを保険と考えるなら諸種の社会保険のように加入(レポート提出)を強制することも可能ではあるが、単位や成績は生命・生活に直接関わる問題ではないので、強制して貴重な労力と時間を奪うことは避けたい。
U レポートと成績評価について
期末試験(2006年2月)の前日までにレポートを提出し、かつ返却されるために受け取りに来た場合は「下駄」効果を期待するものと見なし、1本につき10点以内で加点する。提出されたレポートの中には諸資源と私の時間を浪費するだけのしろものもあり、マイナスの点を付けたくなることすらあるから、粗製濫造や他科目のレポートの流用は慎まれたい。因みに、これまでに私の担当した科目では、履修登録した者の1〜4割が、一人当たり1〜3本のレポートを出した。レポート提出者のうち約4割は期末試験だけでは不可のところをレポートで補って単位を取得できたが、2割はレポートを出したにもかかわらず不可であった。成績や単位との関係ではレポートはあくまで補助手段にすぎず──保険が事故(=不可)を防いでくれるのではなく──、万能の妙薬というわけではない。残りの4割は提出しなくても期末試験だけで単位は取れているが、レポートを書いたことによってはるかに理解が深まったはずだし、評価も上がっている。
V レポートの作成・提出・返却
レポートを書こうと思ったら、まずは、必ず別紙「レポートの作成について」を読み、そこに示した要件を満たすように努力してほしい。殊に、A全体の構成を明示する目次を書くこと、B3点以上の文献を参照することが大切である。なお、文献名の表記は、本講義の参考文献リストのように、著・編者名『書名主題──副題──』(発行元、刊行年)とするように。なお、本講義指定のレポート表紙(あるいはこれと同様の書式の表紙)を付していないものは受け付けない。
講義に関連して質問があるとか、あることがらについてさらに知りたいとか、何か本を読みたいなどの場合は個別に相談されたい(質問と相談の仕方は4月14日配布の「経済史シラバスと若干の注意」Vを参照されたい)。殊にレポートを作成してみようと思った時は、参考文献リストに含まれていないものも読む必要があるので事前に相談することが望ましい。レポート作成中に行き詰まったり、どうしてもわからないことが出てきたという場合も相談に応ずる。
レポート提出の期限は特に設けないので随時提出されたい。「下駄」効果を期待しないなら期末試験以後でも構わないが、今年度内にしていただきたい。
提出されたレポートは通常1〜2週間後に口頭でコメントして返却するので、提出する時に返却日時を確認してほしい。書き放しでは個別的に指導するという意味がなくなるし、返せないと研究室に溜まってしまってどうしようもなくなるので、提出したレポートはかならず受け取りにくること。コメントして返すのに10〜15分ほど要するが、講義終了時は質問を優先するので、返却の際はご足労だが研究室まで来ていただくのが望ましい。