経済史A(2004年度)参考文献
2004年9月3日
小野塚 知 二
 
T 教科書
 経済史全般について1冊で事足りる初学者向けの適切な教科書がないため、この講義では教科書を指定しない。U群から2ないし3冊を手にとってみることをお薦めする。経済史の概説書・教科書はたくさんあるが、その中には「良い本」と「普通の本」と「いい加減な本」がある。「良い本」を読んでおけばあとは何を読んでもそれなりに有益だが、「良い本」を読まずに最初に「いい加減な本」ばかり読んでも無益であるから注意されたい。高校の教科書・参考書類は大学では役に立たない。
 
U 一般経済史の標準的な概説書
 「一般経済史」とか「世界経済史」(つまり対象を地理的にも時間的にも限定していない経済史)の教科書や概説書はほとんどない。どこにも通じる一般的な法則や傾向だけで叙述できることは限られているから単なる寄せ集め以上の「一般」や「世界」を描くのは非常に難しく、そうした本は少ないのである。日本ではそれでも何種類か出版されているが(以下はその例)、外国語ではほとんどない。たとえばイギリスで出版されている経済史概説書はイギリス経済史のそれであって、一般経済史や世界経済史の概説書はまずない。U群の書物で何かに関心をもったら、次はV・W群のどれかを、さらにより専門的な書物や学術論文を読むことをお奨めする。
 
1 長岡新吉・石坂昭雄編著『一般経済史』(ミネルヴァ書房、1983年、2,500円)
2 長岡新吉・太田和宏・宮本謙介編著『世界経済史入門 −欧米とアジア− 』(ミネルヴァ書房、
 1992年、3,200円)
 1は前近代、近代への移行、現代への変容という経済史の基礎テーマを若干の理論的問題も含めて手際よく整理してい る。ただし叙述が欧米中心であり、近現代の資本主義の世界システムという観点が弱い。2はその弱点を補っている。
 
3 中村勝巳『世界経済史』(講談社学術文庫、1978、94年、1,000円)
 やや古いが、一冊で古代から現代までの日本と西洋の経済史をカヴァする。文庫だから電車の中でも読める。
 
4 ロバート・ハイルブローナー、ウィリアム・ミルバーグ(香内力訳)『経済社会の興亡』(ピアソン ・エデュケーション、2000年、2,400円)
 外国語で書かれ外国で出版された一般経済史概説書の稀少例の翻訳。市場社会という特異な存在の生成・変質に注目し た叙述で、一読に値する。1も2も3もなじめない人はこれが良いかもしれない。
 
5 老川慶喜/小笠原茂/中島俊克編『経済史』(東京堂出版、1998年、2,600円)
 立教大学の経済史・経営史関係の教師たちの共同執筆。なかなかよくできた概説書で、上のいずれもどうもなじめない という諸君には、これを読むことをお奨めする。
 
V 西洋経済史の標準的な概説書
 経済史学の最も基本的なテーマは、近現代を通底する資本主義・市場経済・産業社会の誕生(封建制・共同体経済からの移行)、その確立・変化を経て現在までの過程を叙述し、そこに作用した論理と、その過程の諸特質を解明することだから、研究対象は圧倒的に近世以降の欧米と日本である。それゆえ、西洋経済史、日本経済史のように限定すると概説書でも良いものがかなりある。なお、欧米や日本でも前近代(古代、中世)を対象にした研究や、欧米と日本以外の地域を対象にした研究は乏しい。その中では中国は例外的に前近代を対象にしたものも含めてある程度の経済史研究の蓄積があるが、インドや朝鮮となるとはるかに少ないし、研究は圧倒的に近現代(植民地期以降)に偏っている。経済史研究が近世以降の欧米と日本に集中する理由は講義の中でも触れる機会があるはずだが、諸君も考えてみると良い。
 
6 楠井敏朗・馬場哲・諸田實・山本通著『エレメンタル西洋経済史』(英創社、1995年、2,400円)
 西洋経済史教科書の中で最も新しいもので、説明が豊富で、巻末の参考文献リストも充実している。
 
7 石坂昭雄・船山榮一・宮野啓二・諸田實編著『新版 西洋経済史』(有斐閣双書、1976、85年、1,600円)
 西洋経済史の概説書としては今でも最もバランスがとれている。
 
8 関口尚志(よしゆき)・梅津順一著『欧米経済史−近代化と現代−三訂版』(放送大学教育振興会、1987、91、95年)
 近世および近現代西洋経済史教科書の中では最も簡明ではあるが内容は濃い。著者の歴史観も明瞭である。
 
9 石坂昭雄・壽永(すなが)欣三郎・諸田實・山下幸夫著『商業史』(有斐閣双書、1980年、2,000円)
 西洋の商業・貿易・信用・金融の歴史を叙述した概説書。史実記述も豊富でおもしろい。
 
10 馬場哲・小野塚知二編『西洋経済史学』(東京大学出版会、2001年、5,000円)
 日本における西洋経済史学の発展と変容を整理した史学史の共同研究。研究ハンドブックには使える。
 
 
W 日本経済史の標準的な概説書
 
11 石井寛治著『日本経済史[第2版]』(東京大学出版会、1976、91年、2,400円)
 原始から現代までの日本経済史通史としては最上。研究史上の論争点も紹介した上で自説を展開しており、いわば「中 級」向け教科書の決定版だが、初学者にはかなり難解かもしれない。
 
12 原朗(あきら)著『日本経済史』(放送大学教育振興会、1994年)
 近現代に重点を置いている。簡明だが内容は濃い。放送大学の教科書である。
 
13 永原慶二編『日本経済史』(有斐閣双書、1970年、2,200円)
 どちらかというと前近代の叙述が厚い。永原著『日本経済史』(岩波全書、1980年)はさらに前近代に重点を置いている。
 
 
X 経済史に深く関連するその他の概説書
 
14 小田中直樹『歴史学ってなんだ?』(PHP新書、2004年、680円)
 歴史学に関する根本的な問い(史実を明らかにできるか、歴史学は社会の役に立つか、歴史家は何をしているか)に答えようとする。
 
15 浜林正夫・佐々木隆爾編『歴史学入門』(有斐閣、1992年)
 歴史学の歴史を手際よくまとめた概説書。高校までの暗記ものの歴史学との相違がわかる。
 
16 中谷猛・足立幸男編著『概説 西洋政治思想史』(ミネルヴァ書房、1994年)
 西洋政治思想史や社会思想史の概説書は厚いものが多いが、これは内容の割に薄くて便利である。
 
17 楠井敏朗『富、権力、そして神 −社会環境論序説−』(日本評論社、2002年、4,300円)
 かなりおもしろい。本講義の前提ないし基礎として読んでみることをお奨めする
 
18 日高普(ひろし)著『経済学(改訂版)』(岩波全書、1974、88年、1,600円)
 資本主義の運動メカニズムの理論的叙述としては最も平易である。商品、貨幣、資本、利潤、地代、信用、利子などの経済学 の基本タームの定義の仕方を知るのに有益である。
 
19 永井義雄編著『経済学史概説 危機と矛盾の中の経済学』(ミネルヴァ書房、1992年)
 経済理論の歴史を資本主義の展開過程に即して叙述した概説書。経済原論・ミクロ経済学・マクロ経済学などの嫌いな諸 君も理論の生成過程に歴史的にアプローチするとおもしろいかもしれない。
 
20 山内昶(ひさし)『経済人類学への招待 −ヒトはどう生きてきたか』(ちくま新書、1994年、680円)
 未開社会に注目して定常と共生の原理を探る。経済史において前近代社会に注目して近現代社会を相対化するのと似た作業である。
 
Y 辞典および経済史統計(わからないことばがあったらすぐに調べてほしい。辞典類は必ず図書館にある。)
 
21 大阪市立大学経済研究所編『経済学辞典[第3版]』(岩波書店、1965、92年)
22 森岡清美・塩原勉・本間康平編『新社会学辞典』(有斐閣、1993年)
23 西川正雄ほか編『角川 世界史辞典』(角川書店、2001年、3,800円)
24 京大西洋史辞典編纂会編『新編 西洋史辞典』(東京創元社)
25 京大東洋史辞典編纂会編『新編 東洋史辞典』(東京創元社)
26 京大日本史辞典編纂会編『新編 日本史辞典』(東京創元社)
27 国史大辞典編集委員会編『国史大辞典』全15巻(山川出版社)
28 宮崎犀一・奥村茂次・森田桐郎編『近代国際経済要覧』(東京大学出版会、1981年)
29 安藤良雄編『近代日本経済史要覧[第2版]』(東京大学出版会、1975、79年)
 
Z その他の文献
 講義内容に直接関係する文献はこのほかに膨大にあるが、そのほとんどが専門書あるいは学術雑誌に掲載された論文で、すべてあげるのは到底不可能なので省略する。そのうち若干のものは後日何らかの仕方で紹介するつもりである。むろん質問があればいつでも紹介する。外国語文献はUに述べた理由で省略したが、これも要望があれば紹介する。