経済史B(フェリス女学院大学基礎教養科目、後期金T)
シラバス
 
 この講義の目標は、経済史Aと同様に、過去を読み解くための手引きを与えることにある。「過去を読み解く」というのはどういうことか、またそれがなぜ大切なのかは、講義の最初に、また講義全体を通じて触れる。
 この講義では、まず近代の資本主義、産業社会、市民社会を成り立たせてきた構造と原理に、多面的に接近する。いささかオムニバス風の話になるが、その多くは「いま」に通ずる近さをもっているであろう。それは要するに、「豊かさ」と「自由」の物語であり、それらを増進させようとして何を生み出し、何を失い、何を奨励し/抑圧してきたかという話である。
 近代は「いま」に近いが、どこか異なる。最後の数回でその点に触れるが、現代は未完であるために、素描にとどめる。現代を終わらせるという選択肢が何を意味するのかという問いが提示されるであろう。
 
T 導入
 1 経済史:物欲、分業、効率性、支配、自由
 2 いま:前近代、近世、近代、現代、「ポストモダン」?
U 近代
 1 産業革命:産業化、産業革命の古い概念、新しい概念、産業革命で何が変わったのか
 2 資本主義の経済制度:ルールと制度、信用、金融、株式会社、保険、倒産
 3 国家と経済:経済学における国家の外部性、制度の創出・維持、生産要素、労働市場、土地市場
 4 自然と経済:自然の生産力、自然の有限性、経済学における「自然」
 5 家と経済:労働の再生産、家事・介護・生殖・育児、前近代の家、近世の家、家の再編、「近代家父長制」、経済学における「性」
 6 近代の共同性:「努力すれば報われ、正義が勝ち、愛が貫き通る社会」、近代社会のアポリア、公共性の前近代と近代、市民の重層性
 7 資本主義の世界システム:国/世界、地域、世界システムの諸段階、相互依存と帝国主義、「豊かさ」の伝染、現代の起点@
 8 ネイションとナショナリズム:言説、実体、さまざまな近代、「外敵」と「内なる異物」、「自由」の伝染、現代の起点A
V 現代
 1 福祉国家:お節介な自由、「社会連帯」、社会保障と異端、さまざまな寄る辺
 2 破局と組織化:戦争、革命、大恐慌、新自由主義、ヨーロッパ統合
 3 結語に代えて:退場できない20世紀、「豊かさ」と「自由」
 
 教科書は指定しない。講義内容を理解して、ノートにまとめれば、それがあなたの教科書である。
 講義開始時に文献リストを配布するほか、必要に応じて随時案内する。関心のある方は予め、以下のいずれかを読んでみると良い。楠井敏朗・馬場哲・諸田實・山本通『エレメンタル西洋経済史』(英創社)、ハイルブローナー&ミルバーグ『経済社会の興亡』(ピアソン)、藤瀬浩司『資本主義世界の成立』(ミネルヴァ書房)、馬場宏二『新資本主義論 −視角転換の経済学−』(名古屋大学出版会)、長岡新吉・太田和宏・宮本謙介『世界経済史入門』(ミネルヴァ書房)、小田中直樹『歴史学ってなんだ?』(PHP新書)、馬場哲・小野塚知二編著『西洋経済史学』(東京大学出版会)。
 期末試験で100%評価する。ただし、提出任意・テーマ自由のレポートを受け付ける。これを含めて、成績評価についての私の考え方と、単位取得の条件については、講義開始後、配布物で説明する。