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プログラムレポート ~ビル・エモット氏 東大EMPで語る~

2009年12月17日

2009年11月20日、国際ジャーナリストとして世界的に知られているビル・エモット氏を東大EMPの特別講師としてお招きし、「新しい世界、新しい日本」と題して、英語で講演をしていただきました。エモット氏は、英『エコノミスト』の元編集長で、日本では『日はまた沈む ジャパン・パワーの限界』(草思社、1990年)、『日はまた昇る 日本のこれからの15年』(草思社、2006年)の著者としてよく知られています。

エモット氏は、まず、世界経済危機とそれが日本に与えた影響、さらに鳩山新政権の日本についてアウトサイダーとしての見解を語り、後半は、受講生との活発な意見交換を楽しまれました。講演概要は以下の通りです。

【エモット氏の講演概要】

2008年の世界経済危機後の世界は、資本主義の終焉かとも言われているが、私はそうは思わない。ご存じのように、今回の経済危機は資本主義の在り方に変化をもたらしており、金融中心街であるアメリカのウォール街やイギリスのシティが中心となって過去10-15年の間に築いてきた金融システムが崩れ、金融セクターに大きな変化が起こっている。

さらに、長期的な傾向も作用している。つまり、アメリカ、日本、ヨーロッパがグローバルな経済成長の中で主導的な役割を果たしていた時代に終わりを告げ、中国やインドなど新興国の国内需要の活性化で、世界経済は均等化しつつある。CO2排出削減などの環境対策は世界的な傾向になり、電気自動車はトレンドになってきている。ロイターの財務担当記者であるイギリスのステラ・ドーソンは、エコノミストの間で言われている現在の世界経済の回復状況をそれぞれの頭文字をとって「LUV」という造語で説明している。日本やヨーロッパは回復には時間がかかるL字型。アメリカは平坦から急回復に向かうU字型。一方、中国やインドは、2008年の前半はインフレに応じるため主に金融引締政策によって景気後退が起きたが、後半は引締政策が逆になるV字型の回復基調になってきている。全体として、世界経済は回復に向かってきている。

私は特に中国に注目している。基本的な長期課題は、中国の通貨である人民元である。第二次世界大戦後(1945年)に採用された固定相場制のブレトン・ウッズ体制は1971年に崩壊し、その後、世界の経済大国では変動相場制が採用された。中国の人民元はこの変動相場制に参加すべきである。つまり、世界経済の調整は、中国によって行われようとしているのであって、アメリカではないのである。

このような世界経済の状況は、日本にどのような影響を与えているだろうか。今後どうなるかは分からないが、日本は現在、大きな三つの問題をかかえていると指摘されよう。(1)輸出に頼り過ぎ、(2)サービスセクターの生産性の低さ、(3)労働市場の問題(非正規雇用者vs正規雇用者、失業率悪化、人口減少、収入減)。

また、2009年8月30日に政権交代があり、鳩山政権が発足したが、不安定なことが多い。例えば、社会保障費や公共事業費の見直し、消費の活性化、事業仕分け、サービスセクターにおける規制緩和の促進、政治家主導vs官僚制度、モラトリアム法案、「東アジア共同体」構想などである。
新政権が成功するかどうかは分からないが、自民党体制よりはよくやってくれるだろうと期待している。ただし、日本は欧米型の二大政党にはならないと思う。

以上が、アウトサイダーとしての私の世界経済、日本に対しての見方である。

エモット氏の講演後、受講生からは、中国とアメリカの関係、中国経済、マニフェスト、環境問題などについて質問があり、有意義なディスカッションが行われました。

「世界経済は回復に向かっている」と語るビル・エモット氏
「世界経済は回復に向かっている」と語るビル・エモット氏
エモット氏の特別講義風景
エモット氏の特別講義風景

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