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プログラムレポート ~向井千秋氏 東大EMPに登場~
EMP第4期では、8月27日に独立行政法人宇宙航空研究開発機構JAXA(ジャクサ)の向井千秋氏をお招きし、特別講義として「宇宙医学―ライフイノベーションへの貢献」というテーマでお話いただきました。
「宇宙を仕事場にしたい」。もともと医者として活躍されていた向井先生が、なぜ宇宙飛行士を目指されたのか。最初にお話いただいたのは、そのような宇宙飛行士を志したきっかけについてでした。宇宙飛行士募集の記事を新聞で見かけたところから、チャレンジャー号の事故を経て、日本人初の女性宇宙飛行士として宇宙へ飛び立つまでのエピソードは、ご本人に語っていただくだけあってたいへん興味深い内容でした。
次にご紹介いただいたのは、宇宙環境の利用に関してでした。微少重力に代表されるように、宇宙空間にはそこでしか実現できない実験環境があります。国際宇宙ステーションにおける実験を管理されていた立場から、宇宙空間における実験に対する考え方の変遷や、今後の展望についてもお話いただきました。特に、宇宙開発の技術をスピンアウトすることだけを重視するのではなく、さまざまな分野からの技術を宇宙開発にスピンインしていくべきという発想が大事であるというご指摘は、重要であったと思います。
後半は、現在、向井先生が長を務めておられる宇宙医学生物学研究室での研究について語っていただきました。宇宙における医学は、さまざまな点でユニークです。宇宙空間における厳しい物理環境に留まらず、閉鎖空間に長期に閉じこめられることによる精神的影響や、さらには健康な人が不健康になるというプロセスを観察できることなども、大きな特徴です。宇宙空間に宇宙飛行士を送り出し、そこで起こりうるさまざまな身体への影響を予防して、健康な状態で地球に戻すことを目的とする宇宙医学は、究極の予防医学とも言えるというお話は、確かにその通りであると納得させられました。
宇宙から地球に戻ってきた時に、これまで意識していなかった重力を感じ、物が地球の重心に向かって落ちることに感動したという向井先生の最後のお話は、特に印象深いものでした。日頃慣れてしまっているフィルターを外し、その奥にある本質を感じ取るということは、EMPで学んで得たものと共通するものがあると感じた受講生も多かったようです。向井先生の明るくチャレンジングなお人柄にも触れることができた、あっという間の105分でした。