お知らせ
プログラムレポート ~生産技術研究所見学(第5期)~
2011年1月24日
第5期プログラムでは1月14日、東京大学生産技術研究所(目黒区駒場)の見学会を実施しました。「生産技術」の名前の通り、1949年の創設以来60年余にわたって産学連携の活動をしてきたユニークな研究所です。教職員、大学院生、研究員など合わせて約2000人が在籍しています。
最初に、所長の野城(やしろ)智也教授から研究所の3つの特徴を聞きました。1番目は、組織がフラットであること。講師・准教授以上の教員が独立した研究室を主宰しており、その数は100以上。若手でも人間関係のしがらみにとらわれることなく、自由闊達に活動できる環境を生み出しています。研究室間の垣根も低いので、異分野の研究者たちが課題解決のため、機動的に連携することも容易です。
2番目の特徴は、産業界との結びつきが深いこと。研究開発の推進に民間との協力が欠かせないことから、制度として民間との共同研究や受託研究があり、民間の研究者や技術者との交流も活発です。3番目は、国際交流活動に力を入れていること。パリ、バンコク、トロントに海外研究拠点があり、各拠点の隣国に拠点分室を構えています。
概要説明の後、野城教授による「サステナブルビルディング(持続可能な建築)と国際標準」の講義がありました。ゼロエミッション(排出ゼロ)ビルは世界に50~60ありますが、建築の環境性能をどのように計測するのか、評価法の確立が国際的な課題になっています。計測の精度と正確さを追求していくと、簡潔さや包括性(分かりやすさ)が犠牲になり、だれにでも分かりやすくしようとすると、精確さが失われます。国際的には日本、米国、英国、欧州大陸で、それぞれ別個の評価法が開発されてきたそうです。
次に、生産技術研究所、戦略情報融合国際研究センター長の喜連川(きつれがわ)優教授による「サイバーフィジカルシステムと情報融合炉」の講義がありました。サイバーフィジカルは、電脳空間と実世界空間の融合の意味。現代社会は家電や自動車をはじめ、ありとあらゆるものに組込制御システムが入っています。こうした組込システムをネットワークで統合すると、電力網や航空管制、自動車運行システム、医療サービスなどさまざまな分野で大きな革新が生まれる可能性があるそうです
午後は受講生が4つの班に分かれて、喜連川優教授、竹内昌治准教授、加藤信介教授、岡部徹教授の各研究室をそれぞれ訪ねました。
喜連川研究室は1999年から、日本語で書かれたウエブアーカイブの構築に取り組んでいます。無数のブログに書き込まれたキーワードを解析して、言葉の伝播経路をたどる情報地図を作成したり、新しい言葉が生まれてくる過程を分析したりしています。言語学や社会学、マーケティング、広報効果の視点からも、注目される研究分野となっています。
竹内研究室は、生体組織や有機材料と微細な機械部品を融合したハイブリッドシステムを研究しています。電気で動く小さな機械であるマイクロエレクトロ・メカニカルシステムズ(MEMS)に、微細なバイオ技術(ナノ・バイオ技術)を組み合わせることで、応用範囲が広がる「夢のデバイス」の開発を目指しています。
加藤研究室では、環境風洞実験室と極限環境試験室を見学しました。風洞実験は、高層ビル建設が環境に及ぼす影響を調べるもので、建設予定地周辺の縮尺模型をつくり、ビル風の流れや大気の拡散、都市温熱の変化などを分析しています。受講生の一部は秒速15メートルの風が吹く風洞に入り、風の強さを実感。極限環境試験室では、乗用車の車内の快適性を調べる実験が続けられていました。
岡部研究室は、チタン・レアメタル(希少金属)の製造及びリサイクルプロセスを研究課題に掲げています。チタンは軽くて、さびず、強い、という優れた特徴をもった金属で、資源も豊富に存在するため、低コストで製造できる技術が開発されれば、爆発的に普及することが予想される「未来材料」です。レアアースは最近、主要生産国である中国が輸出を抑制したことで供給への不安が広がり、国際的に注目されています。研究室には、ハイブリッド車のモーターから取り出した強力なネオジム磁石や普段目にすることのない様々なレアメタルが置かれていました。現在、ネオジム磁石からレアアースを効率良く回収する技術の研究に取り組んでいます。
幅広い分野にまたがる研究室を訪問したことで、産学連携の最前線を体感する一日となりました。