お知らせ
プログラムレポート ~農学デー(第8期)~
2012年10月31日
第8期EMPでは、2012年10月26日に農学生命科学研究科がある弥生キャンパスで「農学デー」を実施しました。午前中は二つの研究施設を見学しました。
水族生理学研究室では、金子豊二教授より「魚の浸透圧調節とセシウム代謝」について説明を受け、トラフグやウナギなどの水槽を見学しました。魚類などの水生動物は、多様性に富んだ水環境に適応しています。ティラピアなどの広塩性魚やウナギなどの通し回遊魚は淡水・海水双方の環境に適応することができますが、金魚などの淡水魚は海水では生きられず、逆にトラフグなどの海産魚は淡水に適応できません。
魚類のイオン・浸透圧調節研究を推進することで、魚が様々な水圏環境に適応する仕組みを解明し、その応用例として海から遠く離れた山里で温泉水を利用して海産魚であるトラフグを養殖する試みについても紹介していただきました。
また、海水魚は体内の塩分濃度を保つ目的で海水を取り込み、余分な塩分を排出するえらの「塩類細胞」という細胞から、カリウムも排出しています。カリウムとセシウムは性質が似ているため、セシウムも同じ経路で体外に排出されることがわかっています。このように、海水魚は積極的にセシウムを排出するメカニズムを持っていることから、カリウムの代謝回転を早めれば、魚からセシウムを取り除く際の効率を高める技術の開発につながるというお話が印象的でした。
農学生命科学研究科の難波成任教授が研究リーダーを務める植物病理学研究室・植物医科学研究室では、若手研究員から、ゲノム解読用の次世代シーケンサー(遺伝子解析装置)や植物・微生物の遺伝子操作用の機器の説明を受け、電子顕微鏡では実際に植物ナノ病原体を観察しました。
また、光るウイルスを利用したウイルス抵抗性を可視化した実験では、暗くした部屋で光るウイルスに感染した植物に紫外線を照射し、ウイルスの感染の様子を観察しました。そして、極めて微量の DNA サンプルから特定の DNA 断片を短時間に大量に増幅することができるPCR法の実験では、ピペットを使って溶液をセルに注入するという体験をしました。さらに研究室で開発され、現在国内で発生し、問題となっているプラム・ポックス・ウイルス(PPV)の全国調査等に利用されているPPVウイルス検出キットを使い、イムノクロマト法とLAMP法で植物からウイルスの検出をするという実験の体験もしました。
午後は、難波教授による「植物の健康」の講義がありました。植物病の種類や発病や昆虫に媒介されるメカニズム、病害抵抗性遺伝子の発見と機能などについての説明がありました。また、食糧の生産性向上には農薬を使用した「減農薬栽培」が不可避なことや、プラス面ばかりが強調されがちな「有機栽培・無農薬栽培」の問題点、持続可能な食糧生産に関する諸課題について、解説を受けました。
講義の後、受講生は4つのグループに分かれて、フィールドトライアルへと出発しました。弥生キャンパスの広い敷地内で、グループ毎にそれぞれ異なる植物病に罹患したと思われる植物を採取し、構内の「植物病院」に持ち込んで、研究員らの指導のもと、植物病の正体を探りました。生物顕微鏡を使って病変を観察し、植物病の図鑑と照らし合わせながら、チームで議論、診断、発表し、植物医師の仕事を体験しました。
講義、研究室での実験や観察、フィールドトライアル等を通して、身近にあったり、社会問題となっていることを普段とは違ったアプローチで体感したり、考えたりする大変有意義な一日となりました。