お知らせ
プログラムレポート ~農学デー(第9期)~
2013年6月18日
第9期EMPでは、2013年6月7日に農学生命科学研究科がある弥生キャンパスで「農学デー」を実施しました。午前中は二つの研究室を見学しました。
水族生理学研究室では、金子豊二教授より「魚の浸透圧調節研究とその応用」について説明を受けました。
魚類には淡水、または海水の中でしか生きられないものもあれば、淡水と海水双方に適応することができるものもいます。
そのカギは、魚類のエラにある カリウム等の塩類の取り込みと排出の役割を担う「塩類細胞」が握っています。カリウムとセシウムは性質が似ているため、セシウムも同じ経路で体外に排出されることがわかっています。海水魚は積極的にセシウムを排出するメカニズムを持っており、カリウムの代謝回転を早めれば、魚からセシウムを取り除く際の効率を高める技術の開発につながるというお話が印象的でした。
また、魚類のイオン・浸透圧調節研究を推進することで、魚が様々な水圏環境に適応する仕組みを解明し、その応用例として海から遠く離れた山里で温泉水を利用して海産魚であるトラフグを養殖する試みについても紹介していただきました。
説明の後、トラフグやティラピアなどの水槽を見学しました。海水魚と淡水魚が同じ水槽の中で生きられる塩分濃度(20~35%)に調節された水槽で、海水魚であるクマノミと淡水魚の金魚が一緒に泳いでいました。
難波成任教授が研究リーダーを務める植物病理学研究室・植物医科学研究室では、研究室で開発され、現在国内に発生し、問題となっているプラム・ポックス・ウイルス(PPV)の全国調査等に利用されているPPVウイルス検出キットを使い、イムノクロマト法とLAMP法で植物からウイルス を検出する実験を体験しました。
その後は、電子顕微鏡で実際に植物ナノ病原体を観察したり、ゲノム解読用の全自動DNA解析装置や植物・微生物の遺伝子操作用の機器の説明を受けました。 極めて微量の DNA サンプルから特定の DNA 断片を短時間に大量に増幅することができるPCR法の実験では、ピペットを使って溶液をセルに注入するという体験をしました。
また、光るウイルスを利用したウイルス抵抗性を可視化した実験では、暗くした部屋で植物に紫外線を照射し、光るウイルスに感染した植物の様子を観察しました。感染植物は茎や葉脈に沿って蛍光を発しており、感染の広がり方が手に取るようによく分かりました。
さらに、昼食を交えながら、研究室の学生や若手研究者たちから現在取り組んでいる研究の様子などを聞き、彼らの研究に対する情熱に感銘を受けました。
午後は、難波教授から「植物の健康」と題した講義を受けて植物医科学を概観し、その知識をもとにキャンパス内の植物の病害発生の調査を目的にフィールドトライアルへと出発し ました。受講生は4つのグループに分かれて、弥生キャンパスの広い敷地内で、グループ毎にそれぞれ異なる植物病に罹患したと思われる植物を採取し、構内の 「植物病院」に持ち込んで、研究員らの指導のもと、植物病の正体を探りました。生物顕微鏡を使って病変を観察し、植物病の図鑑と照らし合わせながら、チー ムで議論、診断、発表し、植物医師の仕事を体験しました。
受講生からは、「植物の病気」という概念と実態に触れ、こんなにも植物の病気が蔓延していることに驚くと同時に、これまで何気なく眺めてきた植物に対する意識が変わったという声が多く聞かれました。特に、食糧の1/3が植物病によって失われているという実態を科学的に理解せずに有機農業やGMOを語るべきでないという声や、翌朝は足元に生える植物を気にしながらEMPの講義室に来たという声もありました。
研究室での実験や観察、フィールドトライアルという、普段とは違ったアプローチで体感することによって、気づきや理解が進む大変有意義な一日となりました。