お知らせ
プログラムレポート ~農学デー(第14期)~
2015年10月30日
第14期EMPでは、2015年10月23日に農学生命科学研究科がある弥生キャンパスで「農学デー」を実施しました。午前中は二つの研究室を見学しました。
難波成任教授が研究リーダーを務める植物病理学研究室・植物医科学研究室では、6年前に海外から国内に侵入し発生していることが東大植物病院で確認され、その後、全国の梅の樹に発生していることが分かり、国が根絶策に乗り出し問題となっているプラムポックスウイルス(PPV)の全国調査等のために、植物病院で開発され、利用されているPPVウイルス検出キットを使い、イムノクロマト法とLAMP法で植物からウイルスを検出する技術を体験しました。このキットで、これまで全国の梅や桃の樹が200万本以上検査され、陽性だった樹が約40万本伐採されました。
続いて、電子顕微鏡で実際に植物ナノ病原体を観察しました。また、光るウイルスを利用してウイルス抵抗性を可視化した実験では、暗くした部屋で植物に紫外線を照射し、光るウイルスに感染した植物の様子を観察しました。感染植物は茎や葉脈に沿って蛍光を発しており、感染の広がり方が手に取るようによく分かりました。これに対して、抵抗性植物では全く蛍光が観察されませんでした。
水族生理学研究室では、金子豊二教授より「魚の浸透圧調節研究とその応用」について説明を受けました。
魚類には淡水、または海水の中でしか生きられないものもあれば、淡水と海水双方に適応することができるものもいます。
そのカギは、魚類のエラにある カリウム等の塩類の取り込みと排出の役割を担う「塩類細胞」が握っています。カリウムとセシウムは性質が似ているため、セシウムも同じ経路で体外に排出されることがわかっています。海水魚は積極的にセシウムを排出するメカニズムを持っており、カリウムの代謝回転を早めれば、魚からセシウムを取り除く際の効率を高める技術の開発につながるという説明が印象的でした。
また、魚類のイオン・浸透圧調節研究を推進することで、魚が様々な水圏環境に適応する仕組みを解明し、その応用例として海から遠く離れた山里で温泉水を利用して海産魚であるトラフグを養殖する試みについて紹介していただきました。最後に人や動物にとっての塩の重要性についても説明していただきました。
説明の後、ウナギやティラピアなどの水槽を見学しました。海水魚と淡水魚が同じ水槽の中で生きられる塩分濃度(20~35%)に調節された水槽で、海水魚であるクマノミと淡水魚の金魚が一緒に泳いでいました。
午後は、難波教授から「植物の健康」と題した講義を受けて植物医科学を概観し、その知識をもとにキャンパス内の植物の病害発生の調査を目的にフィールドトライアルへと出発しました。受講生は4つのグループに分かれて、弥生キャンパスの自然豊かな広い敷地内で、グループ毎にそれぞれ異なる植物病に罹患したと思われる植物を採取し、構内の「植物病院」に持ち込んで、研究員らの指導のもと、植物病を引き起こしている正体を探りました。生物顕微鏡を使って病変を観察し、植物病の図鑑と照らし合わせながら、チームで議論、診断、発表し、植物医師の仕事を体験しました。
受講生からは、「植物の病気」という概念と実態に触れ、予想以上に身近に植物の病気が蔓延していることを知り、驚いたという声が多く聞かれました。
講義、研究室での実験や観察、フィールドトライアルという、普段とは違ったアプローチで体感することによって、これまで何気なく眺めてきた植物に対する気づきや理解が進む大変有意義な一日となりました。