お知らせ

プログラムレポート ~駒場キャンパスでの実験体験(第15期)~

2016年5月10日

EMP第15期では、2016年5月7日に東京大学教養学部がある駒場キャンパスで実験を体験してきました。自然科学系の講義をより深く理解するために、EMPではプログラムの早い段階で、科学の考え方の本質に触れられる基礎的な実験を体験するようにしています。

130年以上の歴史がある駒場キャンパス
130年以上の歴史がある駒場キャンパス
駒場キャンパスを東西に貫く銀杏並木
駒場キャンパスを東西に貫く銀杏並木


実験に先立ち、「『不確かさ』とは-概念としての誤差との違い-」と題して、総合文化研究科 久我隆弘教授にミニ講義をしていただきました。
物理学をはじめとした自然科学研究の第一歩は現象などの定性的な観察ですが、自然現象の本質を見極め、自然界を統一的に理解するためには現象を定量的に「測る」ことが必要不可欠です。簡単な実験、測定を体験することで"測る"ことの基本をまず学び、さらに、その"測った"結果の信頼性を客観的に解釈し、評価する手法を学びました。

講義の後は、「不確かさ」を実感するために、まず実際に放射線を「測って」みる実験に挑戦しました。
この放射線計測実験では、総合文化研究科の鳥井寿夫准教授の指導の下で、GM(ガイガー・ミュラー)サーベイメーターを用いて身近な放射線源である塩化カリウムの放射能を測定しました。「測定値は毎回ばらつくこと」、「測定時間が長いほど正確な測定ができること」などを、自身で測定結果の「不確かさ」の見積もりを行うことによって実感することができたようです。

放射線には、アルファ線、ベータ線、ガンマ線がありますが、それぞれに性質が異なります。例えば、それぞれの透過力には大きな違いがありますが、それを実感できる機会はなかなかありません。それを目の前で観察できるのが、霧箱実験です。アルコールの飽和蒸気で満たした霧箱内に放射線(主にアルファ線)が出現する度に、飛行機雲のような飛跡として観察することができます。普通では目にすることができない放射線ですが、このような方法で可視化することで、その性質をイメージしやすくなりました。

GMサーベイメーターで放射線量を計測
GMサーベイメーター
で放射線量を計測
液体窒素を移し替える作業
液体窒素を移し替える作業
霧箱で観察されたα線
霧箱で観察されたアルファ線


この2つの実験から、放射線の検出や測定の方法の一端を学ぶと同時に、その測定には「不確かさ」がつきものであることを実感することができたようです。これは、放射線計測に限らず、自然科学一般に共通する科学の基礎であり、さらに言えば社会科学のデータを眺める際にも役立つものの考え方であるとも言えるでしょう。

実験結果について説明する鳥井准教授
実験結果について説明する鳥井准教授
久我教授による講義
久我教授による講義


実験の後、久我教授より「『測る』を究める-単位と標準器、そしてレーザー冷却が拓いた極限計測の世界-」の講義がありました。
「測定」とは「対象となる物理量をある基準となる量と比較すること」です。講義では、測定の基準量となる「単位」、それを現示する「標準器」について、そして、国際単位系の基本単位の中で最も小さな相対不確かさで実現されている時間・周波数標準を題材としてとりあげ、光格子時計等、その研究最前線についても紹介いただきました。測ることの極限ではいったいどんな研究が行われているのか、そこからどんな新しい世界が拓けていくのか、興味深く話をうかがうことができました。

理論と実験の両輪で発展してきた物理学の理解にあたって、自分で確かめるということ、なんでも客観的に判断することの重要性を体感することができた大変有意義な一日となりました。

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