お知らせ
プログラムレポート ~農学デー(第22期)~
2019年10月31日
第22期EMPでは、2019年10月25日に農学生命科学研究科がある弥生キャンパスで「農学デー」を実施しました。
午前中は、植物病理学研究室・植物医科学研究室で、東大植物病院で開発されたプラムポックスウイルス(PPV)検出キットを使い、イムノクロマト法とLAMP法による植物からのウイルス検出を一人ひとり実際に体験しました。
PPVは、約30年前から国内に侵入し大発生していることが東大植物病院で確認され、その後国が全国調査に乗り出しました。その際に、問題となっているPPVの全国調査と感染樹伐採のために、このウイルス検出キットが開発されました。このキットを利用した調査によりPPVが全国の梅の樹に発生していることが分かりました。これまで梅や桃の樹が200万本以上検査され、陽性だった樹が約40万本伐採されました。
続いて、電子顕微鏡で実際に植物ウイルスを観察しました。また、研究室で発見したウイルス抵抗性遺伝子を導入し発現している植物に緑や赤に光るウイルスを感染させ、光るウイルスを利用してウイルス抵抗性を可視化した実験では、暗くした部屋で植物に紫外線を照射し、光るウイルスに感染した植物の様子を観察しました。感染植物は茎や葉脈に沿って蛍光を発しており、感染の拡がり方が手に取るようによく分かりました。これに対して、抵抗性植物では全く光るウイルスが観察されませんでした。
その後、難波成任 農学生命科学研究科 特任教授(東京大学名誉教授、東大EMPコチェアマン)から「生命を操る謎の細菌:創造する破壊者 ファイトプラズマ」と題した講義がありました。ファイトプラズマ学の発祥の地であるとともに、基礎から応用まで展開する現代のファイトプラズマ学の総本山となった日本が、頂点に登りつめるまでの思考・発想・展開の戦略について解説を受けました。
昼食後、農学生命科学研究科の金子豊二教授より「魚の浸透圧調節研究とその応用」についてのミニ講義がありました。
魚類には淡水、または海水の中でしか生きられないものもあれば、淡水と海水双方に適応することができるものもいます。
そのカギは、魚類のエラにある カリウム等の塩類の取り込みと排出の役割を担う「塩類細胞」が握っています。カリウムとセシウムは性質が似ているため、セシウムも同じ経路で体外に排出されることがわかっています。海水魚は積極的にセシウムを排出するメカニズムを持っており、カリウムの代謝回転を早めれば、魚からセシウムを取り除く際の効率を高める技術の開発につながるという説明がありました。 また、魚類のイオン・浸透圧調節研究を推進することで、魚が様々な水圏環境に適応する仕組みを解明し、その応用例として海から遠く離れた山里で温泉水を利用して海産魚であるトラフグを養殖する試みについても紹介していただきました。
講義の後、水族生理学研究室に移動し、実験魚の飼育室を見学しました。ティラピアやパンガシウス(ナマズの仲間)などの水槽を見学しました。海水魚と淡水魚が同じ水槽の中で生きられる塩分濃度(20~35%希釈海水に相当)に調節された水槽で、海水魚であるフグと淡水魚の金魚が一緒に泳いでいました。
コーヒーブレイクの後、難波特任教授から「植物医科学」についての講義があり、植物医科学を概観しました。その後、白石俊昌 日本植物医師会長、市川和規 特任教授、渡邊 健 特任教授の指導のもと、実際に顕微鏡を使って病変を観察し、罹患部組織の切片を作製して、組織内の胞子や、組織切断面から流出する菌泥(きんでい)等を観察しました。観察結果と植物病の図鑑とを照らし合わせながら、チームで議論、診断するという植物医師の仕事を体験しました。
受講生からは、「植物病」の概念と実態に触れ、こんなにも植物病が身近なものであることを実感すると同時に、これまで何気なく眺めてきた植物に対する意識が変わったという声が多く聞かれました。
大学研究室で日頃行われている観察や実験という、普段とは違ったアプローチを体感することによって、気づきや理解が進む大変有意義な一日となりました。