欧米経済史U「欧州統合史」(総合文化研究科・欧州統合史、経済学部・上級西洋経済史U)(S、金U)
本講義の目的は、この1世紀ほど(19世紀末〜21世紀初頭、すなわち現代)のヨーロッパにおける対立・摩擦と協調・統合の要因とその相互関係をそれぞれ分析して、アジアの状況と比較することにある。現代ヨーロッパ史のユニークな点は、それが激烈な対立を繰り返しながらも、長期的な趨勢としては確実に協調と統合の可能性を開拓してきたところにあり、第二次大戦後のヨーロッパ統合の進展過程やEUの現状に目を向ける際にも、協調・統合と、摩擦・軋轢・齟齬・対立の側面とが併存していることを忘れることはできない。
ヨーロッパが趨勢として協調と統合の方向に向かってきたことは否定できないが、本講義はその過程を、「理性的な統合思想」と「統合の父たち(Founding Fathers)」に彩られた予定調和的な歴史としては描かず、19世紀以来の社会、経済、政治、学術等々さまざまな領域における共通経験の長い蓄積に注目し、対立と協調の双方に作用した経済的条件、社会的条件、政治的条件、および、それら諸条件の相互関係に論及する。そうすることによって、密接な経済的相互依存関係は政治的対立を防止するとか、近代の国民国家や国益概念が衰退して統合が進展したなどの通俗的見解を批判的に検討するとともに、アジア統合の可能性(あるいは困難性)を考える際に必要な論点を探ることもできるであろう。
また、今年度は特にヨーロッパにおける通貨・財政、移民・難民、福祉社会の三面での危機 ―その端的な表現は各国で現れている「ヨーロッパ新右翼」とでもいうべき政治勢力であり、その経済史的な背景がこれらの危機を理解する際に決定的に重要である― と一連のEU離脱ないしEU懐疑派の動きにも注目して、その原因と発生態様について歴史研究の知見を用いて考察することにする。
授業計画
T 導入・目的・方法
U 相互依存的世界経済とその破綻
1 相互依存的グローバル経済の展開 ―19世紀のヨーロッパと世界―
2 帝国主義・対立と相互依存 ―第一次大戦前のヨーロッパと世界―
V 二つの大戦と戦間期の経験
1 破局と組織化の経験 ―第一次世界大戦―
2 「常態への復帰」か「戦時」の不可逆性か?
3 世界経済の性格変化と大恐慌 ―協調の可能性と破綻―
4 再び組織化と破局 ―国際金融協調の実験―
W 戦後秩序の中でのEC/EUの形成と進化
1 戦後構想と戦後
2 ヨーロッパの再建・国際協調と冷戦
3 ヨーロッパ共同体
4 動揺と再編
5 市場統合と通貨・金融面の調整
6 福祉社会の危機と難民・移民問題
7 財政・通貨危機と離脱・分裂問題
X 結語と補論